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『風の歌を聴け』『入門・哲学者シリーズ1 ニーチェ』
Posted on 5月 19th, 2008 No comments村上春樹の第一作『風の歌を聴け』(1979年発表、講談社文庫版)
写真は、今週末に読み終えた本です。この2冊は、一緒に読もうと思ったわけではなく、「いま読みたい」しかも「てごろな」本を選んでみたら、こうなったというわけです。<力への意志>(独語ではWille zur Macht)のあらわれを感じなくもないですが。そうそう、『風の歌を聴け』の一番最後に、ニーチェの引用があります。
彼の墓碑には遺言に従って、ニーチェの次のような言葉が引用されている。
「昼の光に、夜の闇の深さが分かるものか。」
(『風の歌を聴け』、40章)
註:彼とは、デレク・ハートフィールドのこと。ボクは、この小説を読む前に、『ノルウェイの森』を上下巻とおして読んでいます。また、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の冒頭が読みかけです。『ノルウェイの森』を読んだ感じが、本書を読んでいてものこっている感じがしました。同じ作家の作品を読むときには、読む順番がとても重要だと思います。
小説の書評となると、内容や、鍵となる表現を語らないわけにはいかなくなります。でも、ネタばれは極力避けたい。『風の歌を聴け』は、40の断章からなっていて、東京の大学3年生で、生物学を専攻している僕と、友人の鼠、ジェイズ・バーのバーテンのジェイ、左手の小指がない女の子が中心人物です。時代は、1970年の8月8日から、8月26日までの19日間。僕の故郷の海辺の町が舞台。村上春樹の小説らしく、文学とジャズ・ミュージックとポップ・ミュージックと映画のネタが随所にちりばめられています。Beach BoysのCalifornia Girlsは、そのなかのひとつ。
僕と会話をする鼠は、最重要人物。僕は鼠と大学で知り合いになった。金持ちの家に育てられ、自分が金持ちであることを忌み、金持ちを嫌う。小説を読まない割には、小説を自分で書くことに、どういうわけか強い関心を持っている。鼠、鼠と書かれると、鼠の頭部をもった男のようにしか想像できなくなるのが不思議です。
ボクが好きな箇所は、30章の冒頭部。
かつて誰もがクールに生きたいと考える時代があった。
高校の終り頃、僕は心に思うことの半分しか口に出すまいと決心した。理由は忘れたがその思いつきを、何年かにわたって僕は実行した。そしてある日、僕は自分の思っていることの半分しか語ることのできない人間になっていることを発見した。
(『風の歌を聴け』、30章)最初は、「ふ~ん」という感じで読み進めていましたが、28章を過ぎたあたりで、物語世界が突如として開けてきて、どんどんのめりこんでいきました。村上春樹はすごい。
『入門・哲学者シリーズ1 ニーチェ ―すべてを思い切るために:力への意志』貫 成人=著(2007年、青灯社)
青灯社という聞きなれない出版社が出した、入門・哲学者シリーズ。この本を選んだ理由は、まず、ニーチェの解説書をよんでみたかったから。次に、写真を見ていただければわかるとおり、装丁がカッコよかったから。そして、シリーズの1番目で、とっかかりがよかったから。青灯社というのは、宮沢賢治の『春と修羅』の序にでてくる、<青い照明>を意識しているのでしょう。
このシリーズは、全19冊で、そのすべてを専修大学文学部教授の貫成人さんが執筆する予定になっています。貫成人さんの著作には、わかりやすくて定評がある、『図解雑学 哲学』(ナツメ社)があります。すでに、「ニーチェ」、「フーコー」、「カント」、「ハイデガー」が発売されていて、それぞれ定価1000円で購入できます。そのほかの15人の哲学者は順に、デカルト、ホッブズ、スピノザ、ヘーゲル、マルクス、フッサール、ウィトゲンシュタイン、サルトル、メルロ=ポンティ、レヴィナス、ラカン、デリダ、ドゥルーズ、ボードリヤール、ネグリ&ハートとなっています。Excellent!やや、フランス・現代思想への傾倒が見受けられますが、よいでしょう。ラカンが入っているのが何よりです。これを一人で全部書き上げるなんて、常人のなせる技でなありませんね。もう、全部読んでしまいたい。
哲学者たちはなにを、どう、どうして考えていたのだろう。現在を理解するためにそれはどう役立つのだろうか。「入門・哲学者シリーズ」は、ひとりひとりの哲学者の全体像を、レベルを落とすことはないように、しかし、哲学の予備知識をもっていない読者にも理解していただけるよう、思いきり噛み砕いて述べたものである。
(「入門・哲学者シリーズ」著者のことば)「中学生にも分かる、はじめての哲学者全体像」という文字が見えるとおり、はじめからおわりまで平易な文体で書かれています。簡単な例え話から、政治や世界情勢の例や、シロアリの巣、ラーメン屋まで、説明がものすごくわかりやすい。それでいて、ニーチェの思想の根幹である、「自己は自我に優先する」、「ルサンチマン=Ressentiment」、「神は死んだ」、「永遠回帰」、「大いなる正午」、「超人=superman」、「力への意志」、「パースぺクティヴィズム=Perspektivismus」が、軽やかに、まるで円環をなすかのように語られています。「わかりやすい哲学」を目指す著者の意気込みが、読んでいてじわじわと伝わってきます。
著者独自の論点がもっとも出てくるのは、<力への意志>の<複雑系=Complex Systems>への読み換えです。著者は、自然科学のこともよく知っているらしく、いまの<複雑系>のもととなった散逸構造論の創始者、プリゴジンに言及してます。しかし、著者がつかっている<複雑系>という用語が少し微妙で、<動的平衡=Dynamic Equilibrium>や<自己組織化=Self-Organization>と解釈したほうがいいんじゃないかと思ったりしました。このあたりのシステム論は、ボクが大学2年の後半のときにかなりはまっていた理論です。機会があったら、詳しく書きたいです。
これが生きるということであったのか。わかった、よしもう一度(『ツァラトゥストラ』)
「ニーチェを知りたい!」という人は絶対に読むべきです。また、松岡正剛氏の千夜千冊の第千二十三夜『ツァラトゥストラかく語りき』も読んでみてください。

