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精神
Posted on 7月 1st, 2009 No comments想田和弘監督の観察映画第二弾「精神」をみてきた。
シアターイメージフォーラムにて。映像はハンディ・カムっぽい。
最初のシーン。
中年の女の人の背中を追うカメラ。
入っていくのは診療所らしき建物。
画面左にその女性。画面右に老齢の医師(ドクター・山本)。
診察が始まる。
女性話しだす。
生きていくのがつらい、という。
<彼ら>が去っていった。
自分が<彼ら>から離れていったことは
これまで何回かあったけど、
<彼ら>から去っていったのは初めて。
すごくつらい。
女性泣きだす。
ドクター・山本うなずく。
診療終わり。
感謝しつつ部屋を後にする女性。このシーンを見て、どう反応してよいか迷った。
この映画がこのような妄想でいっぱいで
映画を観終わるころには
統合失調症患者の妄想の世界に引きずり込まれたらどうしようか
と不安になった。でも、想田監督の観察映画が表現しているのは、
<狂気>の常軌を逸した様ではなく、
患者一人一人の言葉を通しての<精神病>という
目に見えぬ対象への接近だった。「精神」には、実名の施設「こらーる岡山」と医師とスタッフ、
そして患者の方々(映ってもOKな人だけ)が登場している。精神科というものは、<健常者=healthy people>であれば、
絶対近寄らない、もしくは一度立ち寄ったことが知られるだけで
がらりと周囲からの視線が変わる場所なのかも知れない。しかし、これは「こらーる岡山」の特殊性に違いないが、
病気になったら仕方ないじゃないか、
ごろごろ横になってもいいからのんびりと治そうじゃないか、
という「のほほん」とした感じに終始包まれているように思えた。医師と患者というのは、単なる関係性でしかなく、
医師が白衣を着ていなければ
(実際「こらーる岡山」では誰も白衣を着ていない)、
だれが病気なのかわからないと思えた。以前、フリージャーナリストの野村進が書いたノンフィクション
「救急精神病棟 (講談社プラスアルファ文庫)」を読んだことがあった。
それを読んだ印象では、人格もろもろの<崩壊>が迫っていて、
患者は意味不明の言葉をしゃべりたてるし、強制的に保護するほかない、
というような人道的処置とは言い難い場面も出てきたけれど
(同時にそれは野村進氏の筆致の巧みさともいえる)、
「精神」では、十年単位で病気と闘っている患者が多く、
それは急性期/長期療養の違いでもあるのだろうが
まったく異なった印象をもった。「こんなに薬飲まないとなんですよ」とか
「生活保護うけてて薬代がタダだったのが一割負担になって大変です」とか
「両親がいなくなったら自分で料理作らないといけない」とか
「障害者手帳申請しようかと思ってるんですが」という発言があった。
病気との闘いというのは、ある意味生き方そのものなのかもしれないと感じた。精神疾患について語りたいことは多くあるけど、
この映画は、患者その人をありのままに撮っている
という点でおおいに成功していると思う。カメラの前の統合失調症患者の人間くささ、
それは不器用さとか要領のわるさとも言えるかもしれないけれど
そのようなものがリアルな臨場感をもって伝わった。リアルな妄想、リアルな幻聴、リアルな自殺企図は、
病気になってみないかぎり100%分かり合えることはないだろう。
しかし、妄想のリアルさ、病気が辛くて辛いという現実が
映像として伝わった。診察のとき、ドクター・山本が紙切れに
何気なく書いて患者に手渡す概念図のようなものが気になった。
そのなかのひとつは、人生が円環構造をとっているのかラダー状なのか
あなたはどちらですか?というものだった。
ドクター・山本が発言する場面は、
想田監督の意向で極力少なくしたようだが、
ドクター・山本の人としての厚みが垣間見られた。
ああいうものをさっと書けるようになりたいと思った。病との闘いが宗教性を伴ったものになることがある。
想田監督は大学で宗教をやっていたそうなのだが、
ところどころ、仏陀とかマザー・テレサのモチーフがあらわれた。
「癒し」が重要視されるようになったのはだいぶ前だけど、
宗教観のようなものをどれほど前面に出せばよいのか戸惑う。
後半に登場した詩人・菅野さんの言葉や雰囲気や
笑い方がとくに印象に残った。
菅野さんは病気と闘いつつ、<答え>を見つけていると思った。ナレーションやキャプション、モザイクがないのもよく、
「この人はこういう病気だから幻聴が聞こえるのだ」みたいに
無理に納得を促すことをしていない。日本は、精神疾患そのものに対する偏見があるし、
精神科医療が引きずってきた陰鬱とした歴史もある。
こういう映画をたくさんの人に見てもらって
いろいろ考えてもらうことも大事だと思う。映画の後に想田監督が出てきて質疑応答。
さわやかな感じの方だった。
